Silly Maid Club 私たちは真剣におバカです。 第1話

Silly Maid Club 私たちは真剣におバカです。

『創刊号の亡霊、あらわる』

「うわ……出てきちゃった。マジか」

夕方6時過ぎ、アパートの一室。 窓から差し込む西日が、積み上がったダンボール箱をぼんやりと照らしている。

ここはSilly Maid Clubの活動拠点兼私の自宅兼事務所。つまり、全部一緒くたになった六畳間だ。引っ越しの荷物整理を始めて三時間、ようやく部屋の隅にたどり着いた私の手が、段ボールの奥で何かに触れた。

薄い。ペラペラだ。そして黄ばんでいる。

取り出してみると、それは一冊の冊子だった。 表紙には、森の中の切り株の上で、脚を大きく開いて座る金髪の女の子が写っている。

Silly Maid Club 私たちは真剣におバカです。

青いリボン。白いエプロン。困ったような、でも無理やり笑顔を作ったような顔。

「…………」

私はしばらく黙って、それを眺めた。

「お前、脚、開きすぎだろ」

思わず声に出してしまった。 表紙の女の子——8年前の私、エレナ・ローゼン(21歳)は、当然何も答えない。ただ、変わらず脚を開いたまま、虚空に向かってにこっと笑っている。

私はため息をついて、埃まみれの冊子をベッドへ持っていった。


『Silly Maid』創刊号。

部数:30部。 印刷方法:近所のコンビニのコピー機(表紙だけカラー、中身は白黒)。 予算:ほぼゼロ。 クオリティ:察してほしい。

それでも当時の私たちは、これを世に出せることに本気で震えていた。

ページをめくると、最初の見開きにピンナップが現れた。 切り株の上に腰掛けた、Silly Maid Uniform姿の私。脚を左右に開いて、白いエプロンが太ももにぺたりと張り付いている。

「…………本当に何やってんだよ21歳の私」

Silly Maid Uniform、というのは聞こえはいいが、実態はほぼ水着だ。青いスリングショット型のボディスーツに白いサテンエプロンを巻いただけで、「これがメイドです」と言い張るには相当な度胸がいる。当時の私にその度胸があったかというと——

なかった。完全になかった。

「もっと脚開いてー! 笑顔笑顔! Sillyに!」

あのときカメラの後ろで叫んでいたのは、後輩のリズとマリアだ。このクラブの最初の三人のうちの二人。みんな金髪で、みんなおバカで、みんなどういうわけかこの恥ずかしい制服を着ることに使命感を持っていた。

私は言われるがままに脚を開き、言われるがままに笑顔を作り、心の中で「こんな格好、絶対誰にも見せられない……」と叫び続けていた。

それが今こうして本棚の奥で8年間、埃をかぶっていたわけだ。

「ちゃんと隠れてるか心配してたもんな、当時」

Dカップだった胸は、この数年でG寄りのHまで育った。なぜ育ったのか私が一番知りたい。お前は何を目指しているんだ。当時でも十分すぎるくらい目立っていたのに、さらに自己主張を強めてどうするつもりなのか。

創刊号の私が今の私の姿を見たら、確実に「嘘でしょ……」と引くと思う。

私は古い冊子を胸に抱えたまま、天井を仰いだ。

周りからはよく「エレナさんって経験豊富そうですよね」と言われる。 大人っぽいから、とか、堂々としてるから、とか、そういう理由らしい。

全然違う。

全然違うんだけど、毎回「あはは、そうかな〜」とごまかしているうちに、なんとなくそういうキャラが定着してしまった。

実際の私は——まあ、それはおいおい話すとして。

「ふふ」

気がついたら、笑っていた。

バカだよな、と思う。でもその「バカ」に、どこか懐かしさと、ほんの少しの誇らしさが混ざっている。

予算ゼロで、コンビニ印刷で、30部しか刷れなかったあの冊子を、私たちは本気で「世界に送り出す作品」だと思っていた。ピンナップの撮影で脚を開くことに本気で緊張して、本気で恥ずかしがって、それでも本気で「かわいい雑誌を作りたい」と思っていた。

あの熱量は、今でもちゃんと続いている。

形は変わったけれど、このおバカなクラブは今もここにある。

私は冊子を閉じて、本棚の空いたスペースにそっと戻した。 埃を払いながら、ひとつだけ声に出す。

「よく頑張ったね、21歳の私。」

一拍おいて、付け加える。

「……でも本当に、脚は閉じなさい」


【次回:創刊号ピンナップ撮影の裏側で何が起きていたか、リズとマリアが覚えていることと、エレナが覚えていることが全然違う件について】