からくりの君 全1話のレビュー
海外で発売されている日本製アニメの一覧表を眺めていると、ずっと昔に観たアニメで、その当時とても夢中になった作品がいくつもあることに気がつかされたりするのですが、最近では、そんな懐かしいアニメ作品を、もう一度観かえしてみる事が、ちょっとしたマイ・ブームになっています。昨今のアニメとは、だいぶ異なった作風で描かれているそれらの作品には、どれも独特の個性があって、今観ても、何かしらの新鮮な楽しさ・感動を味あわせてくれるものばかりです。この「からくりの君」という作品も、そういった個人的に特に思い入れの深いアニメのひとつです。
文渡蘭菊(あやわたりらんぎく)
本作を初めて観たのは、もうかれこれ8年以上も前のことで、その時も、本作の内容の充実振り・完成度の高さには、身体中がしびれるほどの衝撃を受けました。戦国の世をテーマに、国を滅ぼされ天涯孤独の身になってしまった姫君・文渡蘭菊(あやわたりらんぎく)と、彼女に乞われ、渋々ながらも彼女の敵討ちに協力することになった下忍の睚弥三郎(まなじりやさぶろう)。彼女が操る「からくり人形」を前面に押し出して、二人で力を合わせながら敵国の城に乗り込んでいく様を描いている、和風テイストに満ち溢れたSF時代劇アクションアニメです。
自分の両手両足に繋いだ糸を豪快に操って、大きな「からくり人形」を縦横無尽に動きまわす凛々しい面持ちの蘭菊ちゃんですが、そんな、姫君としての覚悟がうかがわれる姿と、普段のおっとりとした愛嬌たっぷりの姿とのギャップに、私はとても強く惹かれました。
全くの世間知らずで、弥三郎に「箱入り娘ならぬ箱入り姫」とまで言われてしまうほどの、本当に素直で心優しい性格の彼女。しかしその性格は、何の苦労も無い優雅な生活環境から生まれたものなどでは、決してなかったのです。
物語の進行に合わせて、彼女が姫君として負わされてきた様々な苦悩・苦難が、次々と明らかにされていくのですが、その苛烈極まる内容は、まさに地獄絵図そのものといった感じで、普通の子なら、もうとっくに精神崩壊をきたしていても全然おかしくないレベルだったのです。なのに、それでもなお、あのような純な心根をずっと保ち続けているのですから、そんな儚げでいじらしい姿を見せられては、もう惚れないほうがおかしいと言ってしまっても、全く過言ではないでしょう。
最初はあまり乗り気ではなかった弥三郎が、仕舞いには、心の底から彼女を守ってあげたいと思うようになっていくのも、彼女の芯の清らかさを知った者としては、当然の反応だといえるのです。
今回、久し振りにこの「からくりの君」を観て、彼女に対する熱き想いが、再び鮮明に呼び起こされました。大好きなアニメキャラクターというのは、他にもたくさんいますけど、なんといいますか、彼女は私の中では、敬愛の対象にもなり得る、別格な存在の一人なのです。
キャラクター設定やシナリオ面だけでなく、作画も演出も音声も、全てが第一級品の高いクオリティを誇っている本作。所々にかなり残酷なシーンが含まれてはいるものの、より多くのアニメファンにその存在を広く知ってもらいたいと心から思える、そんな、掘り出し物の逸品ともいえる素敵なアニメです。(波城)