『会員番号003、あらわる』
「で、創刊号の次は当然、第2号と第3号でしょ?」
翌日の昼下がり。引っ越しの手伝いに来たはずのクレアは、段ボールの山の真ん中にどかっと座り込み、勝手に缶チューハイを開けていた。手伝う気はゼロだ。
「いや、第2号と第3号は私のソロ活動期だから。黒歴史の増刊号だから」
「何言ってるの。エレナさんのソロ期があったから、私の加入が劇的になったんじゃない」
創刊号を出した直後、マリアが「ごめん、ゼミが本気でヤバい」と言って活動を離れた。学業優先。正しい。正しすぎて何も言えなかった。
それから2冊、私は撮影も編集も製本も、全部ひとりでやった。撮影はセルフタイマー。10秒のあいだにエプロンを整えて、切り株まで走って、脚を開いて、笑顔。第2号の表紙の私は、笑顔というより「完走した人」の顔をしている。製本は深夜のホチキス留め。指に3回刺した。
第3号の編集後記には、手書きで「メンバー募集中!」とある。字が必死だ。
「その募集に釣られたのが私、と」
クレアがチューハイを掲げる。
初対面の第一声は「この雑誌、原価いくらです?」。続いて「私を入れれば売上は3倍になります」という根拠ゼロのプレゼン。
「2人なら2倍じゃないの?」
「ノリです」
賢くて、ちょっぴり計算高くて、最後はノリで決める。Cカップの胸を張って「私はビジュアル担当」と言い切れる子。それがクレアだった。
第4号、初めての2人表紙。水着にエプロン姿の私たちが、ほっぺたがくっつきそうな距離で並んで笑っている。キャッチコピーは「みんな大好きっ♡」。
「あれは大ヒットだったでしょ。30部から50部に増刷したんだから」
「コンビニのコピー機、悲鳴上げてたけどね」
撮影中、クレアは「もっと寄ってください。距離が近いほど部数が伸びるので」と、じりじり肩を寄せてきた。おかげで表紙の私の赤面は、チークではなく本物だ。「みんな大好きっ♡」を押し通したのもクレアで、理由は「ハートマークは売れるので」。計算高い。
そして、その第4号を誰よりも真剣に読み込んでいたのがリズだった。
発売の翌週、金髪のツインドリルを揺らしながら、リズは私たちの前に現れた。172cm。一番年下なのに一番でかい。そして見た目に反して、とんでもなく恥ずかしがり屋で、身持ちが固い。
「たのもーう! エレナ先輩、クレア先輩! 第4号、合格です!」
「合格って何」
差し出された手帳には、びっしり書き込みがあった。
『創刊号:脚の開き、ギリギリセーフ』『第2号:先輩が息切れしてて心配』『第3号:エプロンの丈、要注意』
「あたし、ずっと審査してたんです! 卑猥なのは嫌なんです! エロ可愛いのはOKです!」
「その線引き、どこにあるの」
「心にあります!」
「で、なんで第4号で合格なの?」
「クレア先輩が入ったからです! 頭いい人がいるなら、変なことにはならないって思って……」
「私の脚は信用されてなかったのね」
「先輩の脚は自由すぎるので!」
加入が決まるや否や、クレアが計算高く畳みかけた。
「じゃあ次は3人並びね。D、C、Eでグラデーション。体重なら51、46、56でサンドイッチ」
「誰が具材よ」
「数字で並べないでくださいっ! 卑猥です!」
リズは真っ赤になってツインドリルで顔を隠した。まったく隠れていない。
「それと、新人が入るなら番号を振りましょう。組織っぽくなります」
「あたし、001がいいです!」
「001はエレナさん、002は私。あなたは003」
リズは一瞬しょんぼりして、それからぱあっと顔を輝かせた。
「003! スパイっぽい!」
「チョロい」
クレアがぼそっと言った。私も同じことを思っていた。
ところが第5号の撮影当日、リズは切り株の前で固まった。
「……前からは、無理です」
「えっ」
「背中なら、いけます!」
そうして生まれたのが、リズ単独の第5号の表紙だ。読者に背中を向け、肩越しに振り返りながら、そっと手を差し伸べるリズ。顔は真っ赤で、こめかみには汗が光っている。隅には小さく「No.003」の文字。
悔しいけど、歴代でいちばんきれいな表紙だった。
「恥じらいは最強のスパイスなのよ」
クレアが、本棚の第5号を指でつつく。
「……先輩として、ちょっと複雑だよ」
私は苦笑して、クレアのチューハイをひと口もらった。
ひとりでコピー機と戦っていた夜が、今はずいぶん遠い。
(……ところで、今の私がG寄りのHだと知ったら、リズはどんな顔をするんだろう。たぶん「卑猥です!」って言われる。怖くて絶対に言えない)





